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法曹人口と法曹養成に関する決議

第1 決議の趣旨

1  「2010年(平成22年)ころに3000人程度」とする数値目標に基づいて司法試験合格者が増員されている結果,法曹としての質の確保及び法的ニーズと法曹人口とのアンバランスについて重大な懸念が生じていることに鑑み,当会は,日本弁護士連合会及び政府に対し,2009年度(平成21年度)以降の司法試験合格者の判定に当たっては,前記数値目標にとらわれることなく,前年度合格者数より少ない合格者数に留めることを第一に実施し,その後速やかに単年度の司法試験合格者数を1500人程度に留めるために必要な措置を講じるとともに,できるだけ早期に法曹人口の調査・検証を行い,その結果に基づく適正な合格者数を確定し,もって,法曹養成制度全体の根本的な見直しを行うよう求める。
 
2  当会は,政府に対し,多様な人材を確保する法曹養成制度を実現するため,法科大学院修了者に対する受験回数制限条項を撤廃することを求める。
 
3 当会は,政府及び最高裁判所に対し,裁判官及び検察官の増加が弁護士の増加に比して僅少であるという現状に鑑み,裁判官及び検察官の大幅な増員並びに支部を含めた適正な配置を行うよう求める。
 
第2 決議の理由
1  法曹人口の急激な増加

 司法制度改革審議会は,2001年6月,政府に対して意見書を提出した。その後,同意見書にある「法曹人口の大幅な増加」という方針に従い,2010年ころに司法試験合格者数を3000人程度とする数値目標に基づいて,司法試験合格者が急激に増員されてきた。1998年以降の司法試験合格者数の増加状況は以下の通りである。




 
年次     司法試験合格者数
1998年 812名
1999年 1000名
2000年 994名
2001年 990名
2005年 1464名
2006年 1558名
 (新制度1009名,旧制度549名)
2007年 2099名
 (新制度1851名,旧制度248名)
2008年 2209名
 (新制度2065名,旧制度144名)


 さらに,2008年3月7日付日弁連業務総合推進センター報告書(以下,「日弁連業推センター報告書」という。)によるシミュレーションによれば,前記の数値目標に従って単年度の司法試験合格者数を3000人として増員が継続された場合,約50年後の2056年に,法曹人口はおよそ13万5612人(弁護士人口は12万3637人。現在のおよそ5倍。)まで増加して,その後増減が均衡するという(日弁連業推センター報告書13頁)。

 しかし,現在進行中である「単年度司法試験合格者数3000人」という数値目標が実践された場合に到達することが予想される上記のような過当な法曹人口規模は,司法制度改革審議会で法曹人口増員論が議論されていた当初は明確に意識されていなかったところである。

 一方,別のシミュレーションによれば、単年度の司法試験合格者数を1500名とした場合は,法曹人口はおよそ6万5000人(弁護士人口はおよそ5万8000人。現在のおよそ2倍強。)で増減が均衡することになるのである。

 
2 法曹人口増大政策の根拠と問題点

 前記司法制度改革審議会意見書は,法曹(とりわけ弁護士)の増員を必要とする理由として,次のような指摘をしている。

 すなわち、事前規制・調整型社会から事後監視・救済型社会へという構造改革(いわゆる規制緩和等)が進められていることに伴い、今後、司法の役割の重要性が飛躍的に増大すること、そして、その担い手たる法曹の果たすべき役割も、より多様で広くかつ重いものにならざるを得ないとの指摘である(司法制度改革審議会意見書TP1〜3)。

 そして,このような指摘に基づいて、今後法曹に対する需要は量的に増大し,そして質的に多様化,高度化すると予想して,法曹人口(とりわけ弁護士人口)が増加することの必要性を述べている。さらに,このような必要性の指摘とともに,わが国の法曹人口が先進諸外国と比較して極端に少なく,この弁護士人口の少なさが市民の弁護士へのアクセス障害をもたらしていることなどを挙げて,法曹人口(弁護士人口)が増加することの合理性を説いたのである。

 たしかに,近年の規制緩和政策によって日本社会には,食品の偽装や建築確認申請における偽装,「ワーキングプアー」問題に代表される貧富の差の拡大などさまざまな問題が発生してきた上,最近のアメリカ発の金融危機が世界を席巻し,派遣労働者に対する契約打ち切りや,非正規労働者に対する契約打ち切り,解雇が横行するなど,救済が必要とされる事態が増大している。

 しかし,このことは,前提とされている規制緩和政策自体に対す る反省を求めるものであり,現に,その見直しの機運が高まってお り,今後も際限なく規制緩和路線が継続していくことを前提として 事後救済の需要が拡大するとの議論は,そのまま維持できない。

 また,法曹人口の増加を進めるには,同時に「法曹の質」を維持しながらこれを実現していかなければならないことが当然の前提であり,質の確保がなければ,いかに法曹人口(弁護士人口)が増加しても,よりよい司法サービスの実現とはほど遠い結末を招いてしまうことになるが,増員が継続する中で,後述するとおり,すでに法曹の質の確保について重大な懸念が生じているのである。

 2000年11月1日の日弁連臨時総会決議では,実需と法曹の質の問題に関して,「法曹人口については,法曹一元制の実現を期し,…社会の様々な分野・地域における法的需要を満たすため,国民が必要とする数を,質を維持しながら確保するように努める。」としている。これは当然の指摘であるが,法曹人口が急激に拡大する現在,最も懸念されるべき課題は,2000年当時の決議を踏まえた,法曹の質の確保及び法的ニーズと法曹人口のアンバランスに関する問題なのである。



 
3 新たに輩出された法曹の質に関する重大な懸念

 現状の司法試験合格者数の増大は,すでに「法曹の質」に関し,以下のような重大な懸念を生みだしていることを指摘しなければならない。

(1) 
 司法試験合格者が大量増員された結果,司法研修所における実務教育が十分に行われているとは言い難くなってしまった。その理由のひとつは,2000名を超える司法試験合格者の実務教育を行うために必要と考えられる物理的収容能力が整っておらず,実務修習のほとんどの期間を各地の裁判所・検察庁・弁護士会の修習に委ねてしまっていることである。裁判所・検察庁・弁護士会での,生の事件に触れた実務修習の重要性はいうまでもないが,生の事件に触れる前段階の司法研修所における基礎研修はこれらとともに重要であり不可欠である。それにもかかわらず,新司法試験制度合格者については修習期間が1年間に短縮されており(旧制度合格者は1年4ヶ月である),従前の前期修習が廃止されたことから,一層の基礎研修不足が懸念される状況となっている。
 
 もちろん,従前の前期修習相当の訓練は,法科大学院での教育によって十分行われているとの建前に立って前期修習が廃止されるに至っていることは承知しているところである。しかし,法科大学院での教育に関して,訴状の起案を行ったことがあるか否か,刑事弁護活動に関して必要な指導を行っているのか等大学院間における授業水準・内容の相違が具体的に指摘されている。そうであるならば,前期修習に相当する司法研修所での基礎研修がなく,実務研修期間も短縮されている現在,司法修習制度が全体として不十分な教育効果しかあげられなくなっているのではないかという懸念があり,この事態は深刻といわざるをえない。

 これらの問題点の原因は,司法研修所として,司法試験合格者数の急激な増加に対応できるだけの十分な受け入れ体制を整えていないことにある。現状の司法研修所の物理的収容能力を劇的に改善することが困難な現状を考慮すれば,実際の司法修習受け入れ体制に見合う司法試験合格者数にとどめる措置が実施されなければならない。この措置がないかぎり,市民の権利を擁護するために必要な水準と質を備えた法曹を誕生させることが難しくならざるを得ないのである。


(2) 
 さらに,各地の実務修習地においても,司法試験合格者が大量に増員された結果,司法修習生の受け入れに困難を極めている実情がある。前橋地方裁判所管内の司法修習生の配属人数は,長い間8名で推移していたが,2006年(60期)からは27名程度が配属されるようになった(2008年の新62期は28名である。)。当会としては,その規模が大きくないこともあり,残念ながら,十分な受け入れ体制を確保することが難しく,きめ細やかな指導体制をとることも,「受け入れ8名体制時代」と比較して困難になっていることを率直に認めなければならない。

 この実情は,前橋地方裁判所及び前橋地方検察庁においても,その規模の大きくないことからして,同様であると考える。
しかも,前記の通り司法修習生の内,その大部分を占める新制度合格者の実務修習期間は8ヶ月程度と短く,選択型修習及び司法研修所での集合修習期間を含めても1年にしかならない。
 すでに述べたような十分とは言いがたい実務修習地の実態を踏まえれば,十分に実務修習指導の効果をあげるためには,修習期間を全体として1年半程度まで延長すること(実務修習期間を1年程度に延長すること)が端的な解決策である。十分な実務修習期間を確保しない限り,市民の権利を擁護するために必要な水準と質を備えた法曹を誕生させることは困難といわざるを得ないのである。

(3) 
 司法試験合格者の急激な増加は,すでに指摘したとおり,その大部分が新規登録弁護士となるため,弁護士会が吸収してきた。

 当然のことであるが,弁護技術や弁護士倫理は,司法修習期間中の実務修習だけでは十分に体得されるものではない。司法修習期間が短縮されており,実務修習地でのきめ細やかな指導体制が十分に担保されていない現状では,なおさらのことである。
そうであるから,毎年大量に生まれる新規登録弁護士にとって,法律事務所に就職し,先輩弁護士のもとで職務を行いつつ弁護技術や弁護士倫理を学ぶという実践的訓練の機会(これを,「OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)」という。)を得ることは,当該新規登録弁護士にとっても,その弁護士から法的サービスの提供を受けることがある市民にとっても重要なものとなっている。

 ところが,新規登録弁護士の急激な増大は,既存の法律事務所,先輩弁護士の受け入れ態勢・受け入れ能力を超える規模である。すでに受け入れ態勢及び受け入れ能力は限界とも言われている。

 そのため,新規の弁護士登録を予定している司法修習生は,法律事務所への就職が円滑に進まなくなっている。ただでさえ短い実務修習期間の当初から,就職先を確保するための事務所訪問に腐心せざるをえなくなってしまっているのである。

 この実情は,司法修習生が実務修習に集中できる時間をさらに削いでしまう。基礎的研修,実践的研修を受ける時間が制度的に短縮されているだけでなく,実務修習期間の相当時間を就職活動に割かなければならないため,せっかく実務修習で学んだことを噛み砕いて体得する時間的余裕すらなくしてしまっているのである。

 さらに,苦心して就職活動を行っても就職先を確保できなかった司法修習生は,司法研修所を卒業した時点で弁護士として独立開業せざるを得ない。その結果,先輩弁護士とともに活動するOJTの機会を喪失する。そのため,弁護技術や弁護士倫理を実践的に十分に理解していないにもかかわらず,一人前の弁護士として,法律的援助を求める市民に対して,法的サービスを提供する結果が生じるのである。

 いずれの問題点をみても,法曹の備えるべき質の低下を憂うことにつながるほか,市民の権利を擁護するべき法律実務家としての水準の確保・保持に疑念が生じていると言わざるをえない。このような現実がなんらの改善もなく継続すれば,結局は,市民からの弁護士に対する信頼も損ないかねない。したがって,司法修習生が就職活動に右往左往せず,OJTが十分に機能する程度の司法試験合格者数に留める措置をとることが要請されるのである。


(4) 
 ところで,司法試験合格者1000人時代までは,司法修習生考試(いわゆる二回試験)の不合格者がごく少数に留まっていた。ところが,司法試験合格者が約1500人となってから以降,二回試験不合格者は急増し,その数が100名を超える年もあるほどとなっている(2008年の不合格者は113名)。

 また,最高裁判所事務総局は,2008年5月23日,「司法修習生間の実力にばらつきがでてきており,下位層の数が増加してきている」,「下位層の司法修習生の中には,…基本法について…理解が十分でないため,具体的事案に即した適切な分析検討ができていない者が相当数含まれている」,「基本法の理解が不十分なまま,司法修習で所期の成果を収めることは難しい」など新第60期を指導する教官の感想等を公表したほか,2008年7月15日には,新第60期二回試験における不可答案の概要を公表し,「実務法曹として求められる最低限の能力を修得しているとの評価を到底することができなかった」と評しているのである。

 このような二回試験不合格者数の増加や最高裁による法科大学院修了者に関する傾向分析を見る限り,司法試験合格者が大量に増員された結果,二回試験合格者といえども,法律実務家として備えるべき知識・能力が必ずしも十分とはいえない者が相当数含まれていることが想定されるのである。そうであれば,法曹養成制度の要である司法研修所での修習(基礎研修),実務修習地での実務修習をより充実しなければならないはずである。

 しかし,司法修習に関して大量増員に併行して現実に取られた対応は,すでに述べたとおり修習期間の短縮であった。前期研修は廃止され,実務修習の期間も短縮されており,これが司法修習生の水準低下に拍車をかけているというべきなのである。

(5) 
 ここまで指摘したように,法科大学院終了を前提とする新たな法曹養成制度の枠組みでは,続々と輩出される法曹について,その備えるべき質の確保に対する重大な懸念が現実のものとなっている。速やかにこの懸念を払拭し,市民の権利を擁護するべき法律実務家として必要な水準の確保・保持を担保する制度を構築できるよう,現在行われている法曹養成制度の抜本的な見直しが急務となっているのである。



 
4 法的ニーズと弁護士人口のアンバランスへの重大な懸念

 司法試験合格者数の急激な増加に伴い,弁護士人口は,2001年の1万7126人から,本日(2008年12月26日)現在、2万6975人に達し,極めて急激に増加している。

  このような急激な増員をこのまま維持していくことが好ましいか否かを判断するには,企業を含む市民の法的ニーズに関する全国調査を行い,その結果を正確に把握するとともに適正に分析し,これらの実証的データをもとに論ずることが必要不可欠である(日弁連業推センター報告書19頁参照)。

 このような認識に基づいて行われた法的ニーズに関する調査は,既に同報告書においても報告されている。しかし,その結果を見る限り,弁護士へのアクセスを困難にするほどの法的ニーズ(需要過多)が現在しているかはなはだ疑問であるし,近い将来において法的ニーズが飛躍的に高まることの予測も立たないといわざるをえない。


(1) 
 裁判所に係属する事件数は,減少傾向にあり,人口減少などもあいまって,将来における事件数の飛躍的増加を予測する議論は少数となっている。


(2) 
 事件数の増大=法的ニーズの拡大が見込める分野として刑事弁護活動が指摘されている。しかし,被疑者国選対象事件が拡大することで,その担い手としての弁護士が増加する必要があるという立論は格別,これをもって法的ニーズが拡大すると結論付けることは難しい。前記日弁連業推センター報告書にあっても,「被疑者国選の対象件数を9万件と仮定した場合,これに適切に対応するための弁護士数が,果たして5万人規模であることが必須かとなると,やや疑問である」と結んでいる(同報告書39頁)。


(3) 
 司法過疎地域の解消に向けた取り組みも法的ニーズのひとつとしてあげられることがある。もっとも,司法過疎地域解消に向けた日弁連の取り組み(ひまわり公設事務所)は実を結びつつあり,またこうした取り組みこそが司法過疎をなくすための現実的対応であることに異論はないであろう。

 つまり,司法過疎地域があることをもって法曹人口を毎年3000人近く増加させ続けるまでの法的ニーズがあるということはできないほか,このような急激な増員の理論的根拠として考えることもできない。


(4) 
 法律援助を必要とする一般市民事件に関する需要は,法的ニーズの存在をある程度基礎づけるところではある。

 たしかに、平成18年10月の法テラス発足後,法律扶助の申し込み件数は大幅に増加した。しかし、他方、鳴り物入りで始められた法テラスのコールセンターにおける情報提供業務は,事前予想を大きく下回っており,法律的な援助を必要とする一般市民事件に関する需要が,法曹人口を年間3000人に増員しなければならないほどあるとは到底いえない。


(5) 
 このほか,法曹人口拡大が議論され始めた当初においては,企業内弁護士に関する需要,中小企業・各種団体等の顧問弁護士に関する需要,行政機関・自治体等の需要,ADR等々が例示され,議論されていた。しかし,前記日弁連業推センター報告書においては,これらの分野に関しても近い将来における需要が顕在化するとは予測できていない。
   したがって,年間3000人増員を裏付ける法律実務家に対する潜在的需要があるという立論は,ほとんど根拠のない机上の想定論にすぎなかったとの批判を免れない。


(6)
 以上検討してきたように,需要過多であるという現状分析もなく,近い将来における潜在的需要の増大が見込める分析もないまま,年間3000人の司法試験合格者を輩出するという数値目標だけが先行する事態は,異常なものといわなければならない。異常なペースで弁護士人口を増大させ続けることは,法的ニーズとのアンバランスを発生させる蓋然性が高まることに異論はないだろう。

(7) 
 このような現状分析を,これから法曹を目指す世代が見た場合には,法曹となった先の将来への展望が開けず,結果として有為な人材を法曹界から遠ざける懸念を生む(前記日弁連業推センター報告書19頁)。また,競争が過度に進む結果,「職業(弁護士)倫理」の低下をもたらし,社会や市民に被害を与える可能性すら懸念されるといわなければならない。

(8) 
 前記日弁連業推センター報告書にある調査結果などを踏まえると,現在進められている司法試験合格者数の急激な増員は,到底容認することができない。
 法的ニーズと法曹人口とのアンバランスに対する重大な懸念が払拭されない現状を確認するとともに,できるだけ速やかに,法的ニーズ及びバランスの取れた法曹人口規模に関する更なる調査・検証と研究が実施されることが必須である。



 
5 アンケート調査結果

(1) 
 群馬弁護士会は,2008年11月,会員に対し,法曹人口問題についてのアンケート調査を行った。回答数は43名(全会員171名中)であった。

(2) 
 その結果によれば,「司法試験の適正な合格者数はどの程度と考えますか」との問いに対し,1000名かそれ以下とする回答が9名,1500名かそれ以下とする回答が25名あり,両者を併せると34名(79・1%)であった。


6 現状の問題点を改善するための方策の提言(決議の趣旨第1項関係

(1) 
 これまで述べてきたとおり,法曹としての質の確保及び法的ニーズと法曹人口とのアンバランスについて重大な懸念が生じている。
 
 従って,まず,2009年度(平成21年度)以降の司法試験合格者の判定に当たっては,前年度合格者数より少ない合格者数に留めることを第一に実施すべきである。


(2) 
 司法研修所の物理的な収容能力の限界は,1500名程度であると思われる。この範囲であれば,ともかくも1年半の修習期間を維持することができたという実績は軽視できない。
 そして,司法試験合格者1500名時代には,すでに見たようなOJT機会の喪失や就職活動への専念といった弊害は顕在化していなかった。

 さらに,日弁連業推センター報告書によるシミュレーションによれば,単年度の司法試験合格者数を3000人とすると,法曹人口は、2056年に、13万5612人(弁護士人口は12万3637人。現在のおよそ5倍。)まで増加して,その後増減が均衡するのであり,反面,別のシミュレーションによれば、単年度の司法試験合格者数を1500名とすると法曹人口はおよそ6万5000人(弁護士人口はおよそ5万8000人。現在のおよそ2倍強。)で増減が均衡することになる。

 また,当会の会員によるアンケート結果も,日々業務を行う者の実感として,重視すべきである。

 よって,速やかに,単年度の司法試験合格者数を1500名程度に留めるために必要な措置を講じる必要があろう。


(3)
 そのうえで,できるだけ早期に,法曹人口の調査・検証を行い,その結果に基づく適正な合格者数を確定すべきである。


(4) 
 なお,現在の急激な司法試験合格者数の増大を進める政策の根拠となっているといわれる2002年3月19日の閣議決定「司法制度改革推進計画」については,「平成16年(2004年)に1500人程度に増加させることとし,所要の措置を講じる」として,措置を講じることまでが明記されているのは合格者数1500人までである。

 一方,3000人については,「平成22年ころには司法試験の合格者数を年間3000人程度とすることを目指す」とはいうものの,「現在の法曹人口が,我が国社会の法的需要に十分に対応することができない状況にあり,今後の法的需要の増大をも考え併せると,法曹人口の大幅な増加が急務となっているということを踏まえ,・・・後記の法科大学院を含む新たな法曹養成制度の整備の状況等を見定めながら」との限定がついているのである。

 従って,法曹人口が法的需要に対応しつつあること,今後の法的需要の増大も見込めないこと,法科大学院を含む法曹養成制度が十分に整備されていないこと等の現状に鑑みると,閣議決定をした当時の前提事実は異なってきており,また,「法科大学院を含む新たな法曹養成制度の整備の状況を見定めながら」との限定を踏まえれば,本決議の内容は上記閣議決定の内容とは矛盾しない。


7 受験回数制限の問題点(決議の趣旨第2項関係

(1) 
 現在,法科大学院修了者の司法試験受験回数は,法科大学院卒業後5年以内に3回のみと制限されている。
 しかし,このような受験回数制限条項の積極的な存在理由を見出すことはできない。

(2) 
 そもそも,国家資格試験に関して受験回数を制限することは,法科大学院修了者の職業選択の自由を奪うかあるいは極めて厳しい制限となる。これが,憲法上尊重されるべき基本的人権に対する制約として合理的であるのか,疑問である。

 また,多様な人材の確保を目指すという基本理念(上記司法制度改革審議会意見書及び閣議決定された「司法制度改革推進計画」によれば,「21世紀の司法を担う法曹に必要な資質として,豊かな人間性や感受性,幅広い教養と専門的知識,柔軟な思考力,説得・交渉の能力等の基本的な資質に加えて,社会や人間関係に対する洞察力,人権感覚,先端法分野や外国法の知見,国際的視野と語学力等」を求めている。)に照らしても,受験回数制限には何らの合理性・根拠が見いだせない。

 法科大学院を基礎に据えた上記司法制度改革審議会意見書及び「司法制度改革推進計画」の法曹養成制度の根幹には,司法試験受験テクニックに長けた者ではなく,幅広い社会的素養を兼ね備えた人材を法律実務家として輩出しようという理念があったはずである。受験回数を重ねる中で法律家としての知識,素養が培われることを認めないというのであれば,働きながら勉強をせざるを得なかった学生,その他の多様な背景を持った人材をふるい落とすことと同様であり,上記基本理念に反する制限といわなければならない。

 実際上も,この受験回数制限の存在は,法科大学院修了者にとって重圧となっている。受験回数を「節約」するための受験控えもさることながら,制限超過のため,もはや受験の機会さえ与えられず法律家となる途を絶たれるという事象が2009年以降多数生ずることが見込まれる。もし,できるだけ早期に受験という過酷な状況から抜け出させて別の世界を目指す機会を与えようという趣旨の規定であれば,それはパターナリズムというしかないが,それは職業選択の自由を否定する不要な介入にすぎず,自己決定に基づく幸福追求を否定するものである。

(3)
 以上の理由により,受験回数制限条項は撤廃されるべきである。


8 裁判官・検察官の人口問題(決議の趣旨第3項関係)

(1)
 司法試験合格者の増大及びこれに伴う法曹人口の増大は顕著であるが,その大部分の受け皿が弁護士会であり,裁判官・検察官は増大する法曹の受け入れ先として不十分なままである。

 司法試験合格者数が急激に増大した2004年以降の裁判官・検察官の人数の推移を弁護士人口の推移と比較すれば以下のとおりである(裁判官・検察官は,それぞれ簡裁判事・副検事を除く定員である。・資料は上記日弁連業推センター報告書による。)

年 次 裁判官 検察官 弁護士
2004年 2385人 1505人 20240人
2005年 2460人 1548人 21205人
2006年 2535人 1591人 22056人
2007年 2610人 1634人 23154人
増加人数 +225人 +131人 +2914人


 このように,当該4年間の弁護士人口の増加に比較してみると,裁判官・検察官の増加は僅少といわなければならない。わが国の司法サービスを充実,強化させ,真に市民一人一人のための司法サービスの提供を実現するためには,裁判官と検察官も大幅に(たとえば,現在の2倍以上に)増員しなければならない,との意見もある(前記日弁連業推センター報告書)。市民の権利を擁護するために必要な法律需要は,弁護士のみであるはずもなく,前記司法制度改革審議会意見書でも「法曹人口の増加を図る中で,裁判官,検察官を大幅に増員すべきである。」と指摘され,また上記閣議決定された「司法制度改革推進計画」においても,「裁判官,検察官の必要な増員をおこなうこととし,所用の措置を講ずる。」とされており,適正かつ迅速な法的解決向けて裁判官及び検察官も大幅に増員されなければならないのである。

 背景には,裁判官・検察官の人数が,現状,あまりに少なすぎるという認識がある。特に,裁判所・検察庁の支部への,判事・判事補・検事の配属の少なさは明らかであり,支部においては,裁判官・検察官が過大な担当事件を抱えてその処理内容に影響が出ているのではないかと危惧される。

 司法サービスの充実と強化は,弁護士会のみでなく,裁判所・検察庁を含め,各種の法曹をバランスよく各所に配置することによって実現されるものである。


(2)
 裁判官・検察官の適正人数・適正配置に関しては,早急に調査・検証を実施し,支部を含めた適正配置をはかるべきである。


9 よって,決議の趣旨のとおり決議する。

 


2008年(平成20年)12月26日
群馬弁護会
 


 








  
 
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